中国・馳名商標の認定をうけるまで

日本では、日本の著名商標について、防護標章登録を受けることができますが、中国においても、中国商標法第13条で馳名商標というものが規定されています。この馳名商標は、中国において関連公衆に広く認知され、高い名声を有する商標と定義されています。近年、外国企業も馳名商 標の認定をうけることができるようになりましたが、現在までのところ、日本企業の商標で馳名商標の認定をうけたのは20ブランド程度にとどまっています。 このことからも認定を受けることがいかに難しいかが分かります。

弊所でも中国・上海でおきた商標権をめぐる係争において、侵害訴訟、商 標登録異議申立事件に関与しました。最終的に、訴訟では勝訴判決、異議申立事件でも商標登録取消の裁定をうけることができましたが、ここで決定的な役割を 果たしたのが馳名商標です。以下、事件の概略をご説明したいと思います。

背景
カシオ計算機株式会社は、中国において「卡西欧(称呼 カシオ)」、「CASIO」、「卡西欧 CASIO」など多数の登録商標を所有しています。そのようななか、2005年7月、上海の電動車製造会社の出願に よる同一商標「卡西欧」、「KAXIOU」が公告されました。

商標権侵害訴訟

この上海の電動車製造会社は、上記出願だけでなく、商標「卡西欧」及び「KAXIOU(カシオの中国語発音表記、ピンインという。) 」を電動車 (アシストバイク) に付して販売していました。
こ れに対し、カシオ計算機株式会社は、当初第9類、第14類の先登録商標の著名性を主張しておりましたが、裁判所では著名性の判断をしないとのことにより、 「陸上車」を指定商品とする自社登録商標「CASIO」の商標権に基づいて商標権侵害訴訟を行いました。相手方が製造販売する電動車の商標の使用行為が商 標権の侵害に該当するというものです。
2007年4月、第一審となった上海市第一中級人民法院は、これらの商標や商品の類似性、商標 「CASIO」の知名度の高さを認め、商標権侵害の成立を肯定しました。相手方は、これを不服として上海市高級人民法院に控訴しましたが、ここでも第一審 判決が維持され、商標権侵害の成立が認められました。
ここで重要なのは、「CASIO」と「卡西欧」との類似性が認められたことです。「卡西欧」 のピンイン表記は「KAXIOU」であって「CASIO」ではないため、類似性が認められるのは難しいからです。これは、長年の商標の使用により、中国の 一般公衆の間で「卡西欧」=「CASIO」との認識ができたことを中国の司法機関が認定したという意味で画期的な判決と思われます。
※中国語の発音表記では、「KA(カ)」は「CA」ではなく、「XI(シ)」は「SI」ではないからです。

商標登録異議申立

侵害訴訟と前後しますが、2005年9月、カシオ計算機株式会社は、相手方商標の登録取消を求めて商標局に登録異議申立を行いました。
こ こでは、カシオ計算機株式会社の商標「CASIO」、その中国語表記「卡西欧」は中国国内ばかりでなく世界的に広く登録されていること、「CASIO」が 「卡西欧」に対応する商標として中国公衆の間で認知されていることなどを述べました。さらに、証拠として上述の上海市高級人民法院の判決も参考に供しまし た。
しかしながら、2008年3月、商標局は、カシオ計算機株式会社の商標「CASIO」及び「卡西欧」の知名度や、混同が生じる可能性を証明する証拠が不十分として、相手方商標の登録を維持しました。

評審(再審)請求と馳名商標申請

登録維持の決定を不服として、2008年4月、カシオ計算機株式会社は異議決定に対する評審(再審)を請求し、あわせて、登録商標「CASIO卡西欧」について「馳名商標」の申請も行いました。
2009 年5月の評審では、カシオ計算機株式会社の商標「CASIO」および「卡西欧」が著名であること、すなわち、商標法第13条の馳名商標であることが認定さ れました。さらに、相手方商標とカシオ計算機株式会社の商標が同一であること、出所の混同を生じさせる可能性があることが認められ、最終的に、相手方商標 「卡西欧」の登録は拒絶されました。

まとめ

馳名商標の申請には複雑な手続きが必要であるため、当事者にとっては負担の重い手続です。そのようななか有利な結果を得るために、日ごろより商標のブランド 力を高めておくことが大切といえるでしょう。審理では、中国国内での商標権保護のPR活動や広告宣伝など多くの資料が必要となるため、できる限りたくさん の証拠を収集することも重要です。さらに、膨大な証拠のなかから適切な証拠を選択すること、認定過程での各機関の担当者と密にコミュニケーションをとり、 理解を深めてもらうことも、審理の迅速を図る上で重要となってきます。
中国経済が活発化する現在、中国における商標権にまつわる係争は増加しています。

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